コロナ騒動が始まる前、つまり私が大腿骨を骨折して瀕死の重傷を負う前でもあり、私が心筋梗塞で倒れる前でもあるが、私は仕事で頻繁にアメリカのシリコンバレーを訪れていた。

　そのシリコンバレーでは、比較的多くのテスラ車を目にしていたものだった。
　「テスラ＝電気自動車」程度の知識しかなかった私は、10年ほど前にBMWの電気自動車を1泊2日で試乗したときに、電気スタンドが都内にまったくなく、いや正確にはまったくないのではなく、僅かばかりの電気スタンドには先客がいてまったく使い物にならず「充電難民」になったことを思い出し、「電気自動車っていってもな〜」と馬鹿にしていたものであった。

　私が「このあたりの人々は早々にテスラに乗り換えて、環境意識が高いですね〜」なんて現地のアメリカ人に言うと、「そんなことはありません。テスラに乗っている人のほとんどは2台目や3台目がテスラというだけで、普段は排気ガスを撒き散らす車に乗っているのです」なんてホザいている。
　要するに、テスラに乗っている環境意識の高い人物を演じているというのである。　確かに、(あの時点では)超高額のテスラに乗っていたのは、車を何台も持っているような超金持ちばかりであった。


　今回、そもそもテスラの試乗に応募したのは、、、
　単に「試乗好き」ということもあるが、「家電ガジェット好き」という理由もあった。
　Apple製品が出るたびにショップで弄りまくり、結局買ってしまうというのと同じような感覚であった。
　最近では「アーリーアダプター」なんて言葉もあるが、単なる「新しいもの好き」でしかない。


　12月25日、まさにクリスマス当日の夕方、極感の中、私たち家族3人はテスラショップに乗り込んだ。
　お店の担当の方は、説明もほどほどに、「とりあえず乗ってみましょうか」と我々を促した。
　そして、「寒いので、まずは暖房を付けましょう」とスマホの画面を押した。
　車に行くと、既に車内は暖かくなっている。
　見た目も格好いい。(あのダサかったBMWとはすごい違いだ)

　車に乗り込む時点で、　娘が「これ欲しい！」と叫んだ。

　まだ乗ってもいないのに、なにかワクワク感のある車だ。

　シフトレバーやウインカーの位置は、たいていの日本車とは違う場所に付いている。たまたま譲り受けた車とは同じ場所だったので、違和感なく運転できた。
　一番驚いたのは、ブレーキである。
　アクセルペダルから右足を離すと減速が始まるのである。
　ガソリン車でもアクセルペダルから右足を離すと加速はしなくなるが、いきなり減速することはない。
　テスラは、アクセルペダルから右足を離すと減速が始まり、ブレーキペダルを踏まなくても最後には止まってしまう。
　ブレーキペダルも付いているので、普通にブレーキペダルを踏んでも良いのだろうが、既に5年もテスラに乗っているお店の人は、ブレーキペダルを踏むことはほぼないと言っている。
　よって、ブレーキの摩耗もなく、修理もすることもないらしい。
　しかし、どのタイミングで、後部のブレーキライトは点灯してるのだろうか？？

　巷で話題の巨大なナビ画面も、「大きいことは良いこと」をまさに体感させてくれた。
　さらに、極め付けは、トランクルームである。
　通常は車体後部にしかないトランクルームが、なんと車体前部にも付いてる。
　完全電気自動車なのでエンジンがないことから、ボンネットの下が完全に空洞になっていてトランクルームになっているのである。

　何から何までが感動の連続であった。
　もうこれは、車という感覚ではなく、新しいiPadやMacBookを見に来たようなノリであった。
　値段もかつての金持ちしか買えない値段ではなく、我が家で数年放置されていた車よりも安くなっていた。(あの車には金を掛けすぎたので、ローンに苦しんだ苦い記憶が…)

　娘はずっと「これ欲しい！」と叫んでいた。

　さすがに、車を譲り受けたばかりなので、「新しい車を買うために売り飛ばしました」という訳にもいかず、次に買う車の最大の候補になったのであった。


(余談)
　知人の一人が数年乗っていたテスラを最近売却したらしい。
　なにやら都内のマンションでは、自宅での充電がママならず、再びガソリン車に戻ったらしい。
　なお、国内の充電環境は、かつて私が充電難民になった頃と比べると、大幅に改善はされているようだ。

　ちなみに、私が乗ったテスラ車では、満充電であれば「東京ー大阪」は楽々到達できるらしい。
　その距離を走れるのなら、日常使いでは頻繁には充電しなくても良いのかもしれない。

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